膝痛、ひざの痛み、スポーツによる慢性の膝障害の改善方法と予防

膝の痛みの原因は、症状や背景が人それぞれ異なります。私は趣味で山へでかけ、トレッキングを楽しんでいます。今は歩いたり、走ったりしても膝が痛むことはありませんが、以前は下山中に膝が痛むことがありました。山で知り合ったシニアの方たちも膝が痛くなると話される方が多いです。中には、膝の手術をして痛々しい手術痕を見せてくれる方までみえます。膝が痛くて山登りができなくなることは、彼らにとって死活問題ですので、膝をサポーターで補強したり、筋肉を強化したりと、皆さん、それぞれに努力しているそうです。私の治療院には、スポーツで半月(板)損傷や膝靱帯損傷などの怪我をして手術をした後も、スポーツ中に痛むという方が来院されます。これは、慢性の膝障害といって、治療が難しく、治りにくい状態になっているものです。今回は、慢性の膝障害の改善方法と予防について考えたいと思います。

監修:中村考宏

柔道整復師、鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師。2020年三重県桑名市多度町にえにし治療院を開院。著書「骨盤おこし」で体が目覚める(春秋社)、趾でカラダが変わる(日貿出版社)、他多数。メディア「anan」「クロワッサン」「Tarzan」などで「骨盤おこし」「足指」を紹介。NHKテレビでコロナ禍の運動不足解消エクササイズを紹介。プロフィール詳細

慢性の膝障害・オーバーユース(使い過ぎ症候群)

慢性の膝障害は、ランニングやジャンプで膝関節の屈伸動作を頻繁に、長時間繰り返しおこなうことによって膝に痛みが生じます。痛みが出る箇所は、大腿四頭筋腱付着部・膝蓋腱、鵞足、腸脛靭帯です。オーバーユース(使い過ぎ症候群)とも呼ばれています。

ジャンパー膝

ジャンパー膝は、膝関節の屈伸動作を頻繁におこなうことによって、大腿四頭筋が引っ張られて、膝蓋骨(お皿)、膝蓋腱、脛骨粗面にまで牽引力が加わり、大腿四頭筋腱付着部炎や膝蓋腱炎を起こし、疼痛が発生します。

鵞足炎(がそくえん)

鵞足炎は、膝関節の屈伸動作を頻繁におこなったり、膝から下を外側に捻る動作を繰り返しおこなったりすることで、膝の内側の鵞足(縫工筋、薄筋、半腱様筋、半膜様筋の付着部)にを起こし、疼痛が発生します。

腸脛靭帯炎・ランナー膝

腸脛靭帯炎は、膝関節の屈伸動作を頻繁におこなうことによって、膝の外側の腸脛靱帯が大腿骨外顆と接触して炎症を起こし、疼痛が発生します。

40代男性、半月板を損傷し手術、再び膝に激痛が走る


40代男性、半月板を損傷して手術をしたが、再び膝に激痛が走りました。医師は、画像を確認し、半月板の問題でないかもしれない、との診断。膝の痛みは、半月板以外の何が問題で出現しているのでしょうか?下肢のアライメントを正しく配列するための、徒手療法を施します。動きだしの痛みは消失、運動が滑かになったが、フルスクワットの最終で、まだ痛みが残っています。膝関節の最大屈曲で痛みが出現する要因を更にさぐっていくと、、、膝とは関係ない箇所が要因になっていました。確かに医師の診断通り半月板の問題ではありませんでした。膝が痛いからといって、必ずしも膝に問題があるとは限らないのです。全体の動きの流れをみることが大切です。

膝が痛い、膝以外の問題とは?


ランニングやジャンプなどの動作では、膝関節のみで屈伸運動をおこなうわけではありません。屈伸運動は、足関節、膝関節、股関節の3つの関節でおこないます。

  • 足関節(距腿関節):距骨、腓骨、脛骨で構成されています。
  • 膝関節:大腿骨、脛骨、膝蓋骨で構成されています。
  • 股関節:大腿骨、骨盤で構成されています。

膝関節以外の足関節と股関節の屈伸運動に問題はないのか?足関節と股関節の屈伸運動に問題があれば、当然、膝に負担がかかります。慢性の膝障害を改善するためには、足関節と股関節を正しい関節の軌道で動く状態にすることが必要です。

足関節の屈伸運動(背屈と底屈)


足関節の屈伸運動は、爪先を体に近づける背屈と爪先を体から遠ざける底屈といいます。足首が硬い、と表現する方が多いのですが、これは足関節の背屈と底屈の運動をコントロールできていません。

  • 足関節の背屈は、前脛骨筋、長母趾伸筋、長趾伸筋、第3腓骨筋が作用します。
  • 足関節の底屈は、下腿三頭筋(腓腹筋、ヒラメ筋)、後脛骨筋、足底筋、長腓骨筋、短腓骨筋、長趾屈筋、長母趾屈筋が作用します。

見落としがちなのですが、背屈と底屈の運動には足の末節骨に付着する筋肉が作用します。足関節の運動をコントロールできるようにするためには、足指の趾節間関節が動く状態でなければなりません。

股関節( hip joint ヒップジョイント)の屈伸運動


股関節は英語でヒップジョイントといいます。股関節を確認するためには、まず大腿の外側で大腿骨の大転子という出っ張った骨を確認します。大転子を指標にして、そのお尻側に股関節があります。ちょうどお尻のえくぼができる位置が「ヒップジョイント」です。一般には股関節の位置について大腿骨前面の鼠径部辺りとされていますが、正しくは解剖学でヒップジョイント(股関節 hip joint )お尻のえくぼの位置になります。股関節が硬い、と表現する方が多いのですが、これは股関節の運動をコントロールできていません。

  • 股関節の屈曲は、腸腰筋(大腰筋、腸骨筋)、大腿直筋、縫工筋、大腿筋膜張筋、内転筋群が作用します。
  • 股関節の伸展は、大臀筋、ハムストリングス(半腱様筋、半膜様筋、大腿二頭筋)、大内転筋が作用します。

股関節の屈伸運動は、主に屈曲が腸腰筋(大腰筋、腸骨筋)・大腿直筋、伸展が大臀筋・ハムストリングスの作用になります。股関節は、自由度の高い関節です。そして、大きく強力な筋肉が作用します。スポーツ競技の動作には股関節のコントロールが必須です。

骨盤の後傾位置は大腿四頭筋や腸脛靭帯が引っぱられ膝痛の原因になる


骨盤の中間位は恥骨と両坐骨結節を結ぶトライアングルベースが地面と平行する位置になります。そのとき、坐骨結節は後方で確認できます。骨盤を前傾すると坐骨結節は上方へ移動し、骨盤を後傾すると坐骨結節は下方へ移動します。世界陸上競技で各種目の決勝に出場する選手たちは、骨盤の中間位から前傾の動きが滑らかです。一方で故障が多い選手は、骨盤が後傾気味の位置で動作をしている傾向にあります。大腿四頭筋や腸脛靭帯は骨盤に付着しています。骨盤が後傾した位置は、これらの筋肉が引っぱられ、動作をぎこちなくするばかりか、故障の原因になるのです。

腕振りの膝への影響、四肢と体幹の連動「屈伸運動」


屈伸運動は、足関節、膝関節、股関節が連動する状態でおこなえるようにしたいのです。さらに、四肢と体幹が連動する状態が理想です。慢性の膝障害に肘関節や肩関節が影響することもあります。例えば、肩関節の故障、可動域の左右差があることで、上肢と下肢は上手く連動しなくなります。陸上競技の長距離ランナーは、腕の振り方をトレーニングするそうですが、上肢と下肢、そして体幹の連動が上手くいかないと膝に影響することがあるので注意が必要です。

「深部感覚」から身体がよみがえる!重力を正しく受けるリハビリ・トレーニング(晶文社)著 中村考宏、しゃがむ力――スクワットで足腰がよみがえる(晶文社)

慢性の膝障害の改善を難しくする選手側の問題

慢性の膝障害の改善を難しくする選手側の問題には、体の柔軟性不足、アライメント不良、体力や技術に合わない練習などがあります。趣味でスポーツを楽しんでいる人たちは、プロの選手のように入念な体のケア、トレーニングをしていないでしょう。恵まれた練習環境もないでしょう。故障なく楽しくスポーツを楽しめる人もいれば、慢性の膝障害がありながらも、だましだましスポーツを続けている人もいます。これは個人のスポーツの取り組み方ですが、好きな趣味は長く続けれると良いと思います。慢性の膝障害を改善するためには、これらの問題をクリアしていかなければならないのです。

足首が硬い、股関節が硬い、神経系統をつくる

足首が硬い、股関節が硬い、という表現について、上記で足関節と股関節がコントロールできていないことを述べました。これは、足関節や股関節を正しい運動方向へ動かす神経系統が出来上がっていないのです。すでに神経系統が出来上がっていて、何かの原因で筋肉が緊張し、関節の動きを制限し、固めている状態なら、筋肉にアプローチし、緩めれば、問題は解決するでしょう。しかし、神経系統が出来上がっていない状態で、硬い筋肉にアプローチしても問題は解決しません。慢性の膝障害を改善するためには、自分の体の状態に必要な動きをトレーニングすることが欠かせません。

陸上競技長距離ランナーの接地衝撃から足を守るための治療と原因


関東の陸上クラブで長距離走を指導してみえる60代fujitaさんが個人指導に来院されました。fujitaさんのシューズは擦り減り方に左右差があります。その改善に足の運び方、腕の振り方などフォームの見直しを考えられる方が多いと思います。

私は、フォームの中身を見直すことが大切だと思っています。なぜなら、中高大実業団の選手時代は足関節捻挫を繰り返したそうです。現役引退後は、肉離れ、三角骨障害、腰椎・頸椎ヘルニアが発症したそうです。まず、徒手検査をして足の治療が必要と判断し徒手療法を施しました。

施術後、自分が意識しても動かせなかった足の運動方向に意識が通るようになり、長年足が外に流れしっくりしなかった理由がつながったようです。また、不調のランナーに多いのですが大腰筋が正常に作用していませんでした。骨格位置、関節運動の方向を調整し大腰筋の運動療法をおこないました。年々、跳躍力の衰えを感じていたそうですが、その理由がつながったようです。体の左右差がある程度修正できましたので、多度川沿いのコースでランニング動作をチェックしました。個人指導後、左右の接地感覚がそろい、シューズの擦り減りの左右差の問題もつながったようです。あとは腕ですね。fujitaさんから、「教えていただいたことを取り入れて、自身の動きの改善につなげていきたいと思います」とメッセージを頂きました。fujitaさんはアフリカ人ランナーの走り方を目指しています。私はキプチョゲ選手の走りの根本にある「力の源」に関心があります。フォームの中に潜む問題を解決してキプチョゲ選手の走りの根本にある「力の源」が自動的に発動する走りについて一層の探求をしていきたいと思います。

大腰筋の不具合が慢性の膝障害の改善を難しくする?

大腰筋はインナーマッスルといわれ、この筋肉を鍛えることが難しいといわれています。大腰筋を意識しようとしても意識できない、大腰筋を意識しているけれども正常に作用しない、など筋肉が見えない、あるいは筋肉の実感がない状態では意識できないのだと思います。私は20年ほど股割りトレーニングをしています。あるていど股関節で開脚前屈できるようになったときから、大腰筋を触って確認できるようになりました。大腰筋を触って確認できる状態はお腹がやわらかくなければなりません。もともと大腰筋が正常に作用している人は意識できますが、そうでない人は大腰筋を触って確認できる状態にしてからでないと意識は難しいのではないでしょうか。

さて、先月治療院に来院されたfujitaさんのブログを拝見しました。そのときのレポートが3回に渡ってアップされていました、その中で2回目の記事が大腰筋の内容でした。治療院に来院されるランナーの方たちは、何かしら故障をかかえており、体の状態も個人差があります。共通していえることは、大腰筋の作用状況は違っていても、正常に働いていないことがほとんどです。大腰筋が正常に作用しない理由は、骨格のアライメントが正しく配列されていない、各関節運動の方向が中心から反れている、などがあります。大腰筋が正常に作用していない状態というのは、はじめに述べたお腹がやわらかい状態ではなく、硬い状態になっています。治療では骨格のアライメントを正しく配列し、各関節運動の方向を中心に戻していきます。そして、大腰筋を意識することは難しいですが、基本動作の指標を意識することで、大腰筋が作用するルートを確保するようにします。

▲解剖学アトラス 訳=越智淳三

長距離を走ると腸脛靭帯が痛くなるランナーの大腰筋の調整

裸足ランニングの中村健児さん(なかけんさん)が動画制作に協力してくださいました。長距離を走ると腸脛靭帯が痛くなるということで大腰筋の調整をし、体をリセットしました。体の感覚変化の動画になりますが参考になりましたら幸いです。

接地衝撃からランナーの脚を守るための牧神の蹄を使った足の感覚トレーニング

長距離を走ると腸脛靭帯が痛くなるということで大腰筋の調整をし、体をリセットしました。その続きの動画で、筋肉が作用する足首の動きを理解する、趾節間関節の屈曲、牧神の蹄を使った足の感覚トレーニングをおこないました。参考になりましたら幸いです。動画制作に協力してくださった、中村健児さん、ありがとうございました。引きつづきサポートしていきますのでよろしくお願いします。

「慢性の膝障害」治療のサポートをご希望の方

えにし治療院の中村考宏です。当院では、体の不調や故障を改善するための治療、健康増進やパフォーマンスアップのための施術をしています。ひとりひとりに最善のサポートができるようこころがけていますので、症状や気になることをできる限りお知らせください。当院はコロナ対応で業務をおこなっておりますのでご協力のほどよろしくお願い致します。

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